どうして巣食ってくれないの。
こんなにもたすけてって裂けんでるのに、
どうして巣食ってくれないの。
こんなにも胸の内を撃ち開けてるのに、
どうして巣食ってくれないの。
あなたしかいないのに、
私の刺さえになってくれるのは。
いつだって剥ぐらかしてばかりで、
私の心には手も触れないで、
じっとみているだけなの。
こんなに苦しいのに、あなたは見ないフリをする。
こんなに喰るしいのに、あなたは何もして刳れない。
私の目さえ! そうでしょう。
弱虫なあなた。きょうだって、そう。
私がイカれてるだなんて悲鳴を揚げて、
ゆるしてくれって懇願するんでしょう。
その黒い頭を地面に擦りつけて。
でも残念。「かのじょ」はもうあなたをゆるせないみたい。
だから、どうか、せめて、
私の美味しいところだけ、食べつくしてね。
内臓は食べなくていいからね。
瞳も、食べなくていいからね。
骨も、きれいにとってくれていいからね。
それじゃあ、また私、まってる。
2012.08.29
魚。
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「な、にさまだって言ったのかさっぱり聞こえなかったんだけれどもね。
例えばそれが、"か"からはじまるものだとして"ほ"からはじまるものだとして、
一体君たちはどれほどぼくの主様を苦しめようとするんだい?」
そういうと天使は祈りを捧げる人々に救いを与えました。
耳元で柔らかく神の賛美を説き、喜ぶ人々の額に口付けると、静かにその場を離れました。
恭しく地に頭を垂れる姿に、祈りを続ける人々は天使に希います。
「私にも祝福を!」
「全ての人間に祝福を!」
祝福を与えられた、その来るよろこびに身を震わせて目を閉じました。
右から左へ順繰りに天使は口付けを与えていきます。
一様に、祝われたものは深く深く、これいじょうないくらいに頭を低く下げます。
その姿はまさに敬虔な信者のほか、なにものでもありませんでした。
切なる願いが徐々に消えゆき、祈りの静けさだけが世界を埋め尽くしていきました。
皆が神に深い愛情を注ぎ、皆が全てに深い愛情を注ぐ世界。
まるで、理想のような世界がそこに広がっていたのです。
もうなにも考える事無く、喜びのまま「こときれた」信者達は、
額に穴を開けて幸せそうに笑っていました。
天使は言います。
「な、にさまだか大体想定はつくけれど、
それが"か"からはじまるものだったり、"ほ"からはじまるものだったりしたとき、
僕たちはきみたち人間にひどい憎しみを抱くことになる。
お前らが好き勝手に信じ妬み利用し憎んできた僕らの主様は、もう疲弊なさっている。
息も絶え絶えに、いまだに貴様らを救おうと努力なさっている。
それすらしらず、どうしておまえらはこう何もかもを投げ出して任せてしまうのだろうね。
僕たちには、それが本当に解せなくて、苦しくて、憎らしくてたまらなかったんだ。
だから、こうやって舌に括りつけた長い針で君たちの時間を止めてあげた。
幸せだったろう? だって仮にも僕らは天使だものね。
さようなら人間、神様や仏様の祝福あらんことを!」
天使はそうやって空の彼方へ消えて行った。
2012.09.05
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体育館の陰になったグラウンドの隅。
部活に勤しむ生徒達の目を盗むように、みなことあきらは石段に腰掛けていた。
ひっきりなしに聞こえる掛け声と、床を擦る靴の音。
放課後の喧騒が二人を包む。
他愛もない話題が、途切れることなく交わされていた。
あきらはくるくる変わる親友の表情に微笑んで、その長く垂れた髪に手を伸ばす。
「髪、伸びてきたね」
「そうだね、暑いったらないよ、また短くしようかな」
少し傷んだ毛先を摘んで、みなこは面倒くさそうに呟いた。
「勿体ないなぁ、きれいなストレートなのに、伸ばしてみたら?」
「そうかなぁ、私はあきらみたいなふわふわが好きだけど」
「はねるんだよね、この髪、あんまりいいことないよ」
「それをいうなら、私だって結んでもすぐほどけちゃうもん」
「そっか、やっぱりいろいろあるんだ」
お互いの髪を触りながら、二人はくすくすと笑いあう。
あきらは自分の腕にかけてあった髪ゴムを外して、みなこの髪をとかした。
「ね、ちょっと触っていい?」
「んん? なんかしてくれるの?」
あきらはみなこの真後ろに移動して、量の多いストレートな黒髪を三つにわけた。
全体をやや左にずらして、弛むことがないようにしっかりと固定する。
そして根元から、三本の束を交互に交差させていった。
いわゆる三つ編みを髪の先まで編み上げて、最後にゴムで括る。
ポンと背中を叩いて振り向かせれば、肩口に垂らした三つ編みが揺れた。
「ほら、やっぱりかわいい」
「うわ、わ、恥ずかしい……」
「似合ってるわ、これから三つ編みなこを推奨したいな」
「三つ編みなこって……」
みなこは顔を赤く染めて俯いた。
普段溌剌としたみなこは、こういったことに滅法弱かった。
あきらはみなこの頭を撫でて笑う。
「私、みなこのその髪型大好きよ」
確か、この日からだった、みなこが三つ編みをするようになったのは。
今思い出すと、きらきらと輝いていた過去。
今は、みなことあきらは別々の大学に進学し、頻繁にメールや電話を交わしている。
時折顔を合わせる機会があれば、そのときはみなこは必ず三つ編みをしてくるのだ。
過ぎ去って尚、今を照らし続ける青春を思い、あきらは目を閉じた。
2012.09.11
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初めて会ったときからだと思う。
私はあきらのことを友達として見れなかった。
明らかに他の女生徒に感じない衝動を感じた。
にわかにはやくなる鼓動は私を苛む。
この気持ちは本物だろうか?
一時の気の迷いじゃなくて?
いつだって彼女は気さくに私に話しかけ、私もそれに応じた。
心臓が破裂しそうだ、と何度思ったことか。
彼女が微笑むだけで、天にも昇る気分になった。
あらゆる他愛もないことを話すのが、とてつもない幸せだった。
彼女と私は親友だ、今は未だ。
私は私の邪な気持ちをおくびにも出さずに隠し通す。
打ち明けてしまうのは、やっぱり恐いから。
友達ですらなくなるのは、それは絶望に近いから。
彼女は、私があなたに恋い焦がれていることを知らない。
でも、だからこそ、今の親密さが得られているのだと確信している。
私はあなたのそばにいるためなら、なんだってできる。
でもわたしは、あなたを喜ばせることばかりできない。
私は彼女に彼氏ができたら、その男を引き剥がすのだろう。
彼女は泣くのだろうが、そのときは「友達」の私が支えてあげればいい。
私は彼女を愛してる、多分、今までも、これからも。
もし世界が、この想いを罪悪だと言うなら、私は世界を叩き潰そう。
2012.09.11
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半身というものは、身体の半分を占めているのだろうと思われがちだが、実はそうではない。
半身というものは、身体の全てに近い。
誰だって片足を失えば、義足無しでは立てないだろう?
半分でも十分に致命傷たりえるのだ。
俺は半身を失った。
絶望と孤独の淵で狂いそうになったこともある。
友人の制止を振り切って、きっと不吉なバケモノのように、俺は振舞っていたんだろう。
どれだけ人間を殺したか。どれだけ人間を苦しめたか。
まるで過去のあの日のように、俺は過ちを続けた。
そうして残ったものはなんだったんだ?
今考えると、それこそ孤独だった気がして、俺を命がけで止めてくれた友人には感謝が尽きない。
俺はもう神ではなくなった。
もはやバケモノと形容していいほど逸脱してしまった俺は、この世界にはいられなくなった。
この世界に残ったものはなんだろう?
俺はなにを残したんだろう?
相棒と一緒に過ごした時間は脆く崩れ去った。
瓦礫に残るのは、忌まわしい過去の断片のみ。
俺は背を向けて、この世界を立ち去った。
この世界が崩れ去ろうが、バケモノの俺には関係ない。
誰が核だのどうだのと、俺にとっては些細なことだ。
ただ一つ重要なことは、俺がもういちどアイツと笑い会えるようになること。
俺に残されたものはただ一つの希望、それだけだった。
世界に取り残されたものがどうなるか、俺は知らない。
ある奴は「自らが核になろうと変容するパターン」を教えてくれた。
それに足る存在がいただろうか。
しばし考えて、一つの可能性を思い出す。
あいつなら、もしかしたらこの世界の核たりえるかもしれない。
残されたものは、なにも紙屑だけではなかったのだ。
俺はばけものになって、全てどうでもよくなった。
未練とか、そういうものは全部捨てた。
確固たるただ一つの目的でもって、俺は生きていた。
残されたものの辛さを相棒は知らない。
毎度俺は残されるばかりで、今度ばかりは許せそうになかった。
だから、俺は全てを残していくことにした。
どうか憎んでくれるな、世界が崩壊するのは手順の一つ。
スタートを切る銃声のようなものだ。
どうか憎んでくれるな。
残ったものの苦しみを俺は知っているから。
2012.09.12
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